2026年9月23日

「ヒアルロン酸注射を続けているけれど、膝の痛みが良くならない」
「手術はできれば避けたいので、PRP療法を受けてみたい」
こうした患者さんにとって、PRP療法は治療選択肢の一つです。
一方で、PRP療法について当院が非常に大切にしていることがあります。
それは、
「PRPを注射するか」よりも、
「そもそも、その膝にPRPを行うべきなのか」を正しく診断することです。
PRPはすべての膝の痛みに効く治療ではありません。
膝の痛みの原因を十分に調べず、「変形性膝関節症だからPRP」という考え方で治療を行うと、本来は別の治療を行うべき患者さんにPRPを行ってしまう可能性があります。
当院では、PRPを行うこと自体を目的にはしていません。
まず「なぜ、この膝は痛いのか」を診断することから始めます。
「変形性膝関節症だから痛い」とは限りません
中高年の膝痛で最も多い原因の一つが変形性膝関節症です。
しかし、ここに一つ大きな落とし穴があります。
レントゲンで変形性膝関節症が見つかったとしても、
「変形性膝関節症がある」ことと、
「現在の痛みがすべて変形性膝関節症から来ている」ことは同じではありません。
変形性膝関節症の患者さんの膝には、
・半月板損傷
・関節軟骨損傷
・関節内遊離体
・滑膜ひだ障害
・関節内ガングリオン
などが合併していることがあります。
さらに、関節リウマチ、結晶誘発性関節炎、軟骨下脆弱性骨折(SIF)、股関節など膝以外からの関連痛が、膝の痛みとして現れていることもあります。
こうした病態では、PRPを注射するだけでは十分な改善が期待できない場合があります。
だからこそ、PRPを始める前の診断が重要なのです。
PRPが「効く人」を探すだけでは不十分です
PRP療法を検討するとき、
「どんな人にPRPが効きますか?」
という質問をよく受けます。もちろん、それは重要な問題です。
しかし現時点では、PRPが誰にどの程度効くのかを治療前に完全に予測することは困難です。
そのため私がより重要だと考えているのが、
「PRPが効きにくい原因が隠れていないか」を先に調べることです。
PRPの効果を100%予測することはできなくても、診察や画像検査によって、「この患者さんにはPRPより適した治療がある」と判断できるケースはあります。
私自身、以前からPRP療法ではこの「患者スクリーニング」を重視してきました。PRPの予後を完全に予測することが難しいからこそ、少なくとも「PRPだけでは改善が期待しにくい患者」を見極めることが重要だと考えています。
実際に約5人に1人が「PRP以外の治療が適切」でした
これは単なる考え方ではありません。
私が過去に、ヒアルロン酸注射などの保存治療で改善せず、再生医療を希望して受診した患者さん352膝を検討したデータがあります。
その中で、比較的変形の軽い患者さんは86膝でした。
詳しく診察・評価したところ、
13膝は関節鏡手術の適応、
5膝は変形性膝関節症以外が痛みの原因
と判断しました。
つまり、86膝中18膝、21%
で、PRPをそのまま行うのではなく、別の治療が適切であると判断したことになります。
およそ5人に1人です。
この結果からも、特に
「レントゲンではそれほど悪くないのに、なぜか膝がずっと痛い」
という患者さんほど、PRPを行う前に丁寧に原因を調べることが重要だと考えています。
特に注意したいのが「引っかかる」「ズレる」「噛み合わない」という症状
診察で私が特に注意して聞いている症状があります。
「膝が引っかかる」
「歩いていると突然ガクッとする」
「膝がズレる感じがする」
「何かが挟まっている感じがする」
「膝が噛み合わない感じがする」
こうした症状です。
この場合、単純な関節炎だけではなく、半月板や軟骨などによる機械的な問題が痛みに関係している可能性があります。
実際、中高年ではMRIで半月板の変性断裂が見つかること自体は珍しくありません。
重要なのは、
「MRIで半月板損傷があるか」だけではなく、
「その半月板損傷が、本当に現在の症状を起こしているのか」
を判断することです。
そのためにはMRIだけを見るのではなく、患者さんが訴える症状、身体診察、画像所見を総合的に判断する必要があります。
私自身も、半月板損傷を評価するときには「引っかかる、ズレる、噛み合わない感じ」がないかを丁寧に確認し、断裂形態なども含めて治療方針を判断しています。
MRIを撮ることが目的ではありません
「それなら全員MRIを撮ればよいのでは?」
と思われるかもしれません。
そうではありません。
大切なのは、MRIを撮ることではなく、MRIが必要な患者さんを見極めることです。
たとえば、
レントゲン上の変形は軽いのに痛みが強い
治療を続けてもなかなか改善しない
引っかかりやロッキングなどの症状がある
といった場合には、レントゲンでは分からない原因を調べるため、MRIが重要になることがあります。
私がAPS治療前のスクリーニングで特に重視してきたのも、
① X線所見と症状に乖離があればMRIで精査する
② 痛みの続くKL2には特に注意する
③ 機械的因子が痛みの主な原因となっている症例を見逃さない
という3点です。
PRPではなく、別の治療をご提案することもあります
診断の結果、PRPが適していると判断すれば、治療選択肢としてPRPをご提案します。
一方で、
「今回はPRPをしないほうがよいと思います」
とお伝えすることもあります。
半月板や不安定な軟骨など、機械的な問題が痛みの主な原因であれば、関節鏡手術など別の治療を検討したほうがよい場合があります。
また、変形性膝関節症そのものが進行している場合には、PRPだけにこだわるのではなく、患者さんの症状、年齢、活動性、希望などを踏まえて、保存治療から手術まで選択肢を整理することが大切です。
「PRPを希望して受診したからPRPをする」
のではなく、
「その患者さんにとって何が適切なのかを考えた結果、PRPを選択する」
という順番を当院では大切にしています。
PRP治療で大切なのは「何を注射するか」だけではありません
PRPにはさまざまな製剤や方法があります。
もちろん、それらの違いも重要です。
しかし、どれほど優れたPRPを使用しても、そもそもの痛みの原因にPRPが適していなければ、十分な効果は期待できません。
PRP治療では、
何を注射するか
だけではなく、
誰に治療するのか
を考えることが非常に重要だと私は考えています。
その判断には、膝の診察だけでなく、レントゲンやMRIの読影、半月板・軟骨損傷の評価、そして必要に応じて手術という選択肢まで理解したうえで、膝の痛み全体を評価することが必要です。
PRP治療で最も大切なのは「適応を見極めること」
PRPは、適切な患者さんに行えば有用な治療選択肢になり得ます。
一方、自由診療である以上、患者さんの経済的負担も小さくありません。
だからこそ、
「とりあえずPRPをやってみましょう」
ではなく、
「あなたの膝の痛みに、本当にPRPが適しているのか」
をできる限り明らかにしてから治療を選択することが大切だと考えています。
PRPを希望して来院されたとしても、PRP以外の治療のほうが適していると判断すれば、その理由をご説明します。
逆に、診察や画像検査を行い、PRPが治療選択肢として適切だと判断できれば、期待できる効果だけでなく、その限界についても説明したうえで治療を検討します。
PRPを「する」ための診察ではなく、PRPを「するべきか」を判断するための診察。
これが、当院のPRP治療に対する考え方です。
PRPを検討している方へ
特に、
「ヒアルロン酸注射を続けても改善しない」
「手術はできれば避けたい」
「レントゲンでは軽いと言われたのに痛みが強い」
「PRPを受けたが十分な効果がなかった」
「膝が引っかかる、ズレる、ガクッとする」
といった方では、一度「PRPをするかどうか」から離れて、膝の痛みの原因そのものを再評価することが大切です。
目黒ひざ&形成外科クリニックでは、PRPありきではなく、診察・画像所見をもとに膝の痛みの原因を評価し、一人ひとりに適した治療方針をご提案します。
執筆・監修:小倉誉大 医師
目黒ひざ&形成外科クリニック 院長
整形外科専門医/膝関節外科
膝関節外科を専門とし、変形性膝関節症、半月板損傷、軟骨損傷、スポーツ膝などを診療。米国Harvard Medical School関連施設での留学経験を持ち、保存治療から手術まで幅広い膝治療に携わる。